
11月2日、私たちサイクル・リビングラボは、京都府との協定締結式と、協定締結を記念したシンポジウムを行いました。またそれに先駆けて、同イベントの前日より2日間にわたり、東京・大阪から民間企業の方々をお招きし、丹後半島をめぐるモニターツアーを開催。シンポジウムにモニターツアーのフィードバックも含めるという、ライブ感のあるイベント設計に取り組みました。地域のポテンシャルと次の一手を探った2日間をレポートします。
専門的視点で、地域を探索する

「このロケーションなら、フェスができるんじゃない?」
「適度に丘があるから、フィールドで体が動かせそう。家族連れなど幅の広い世代で楽しむなら、食の楽しみもあったほうがいいですね」
これは、京都府北部の丹後半島をめぐる1泊2日のモニターツアー中のひと幕。インフォバーン+イミカが提供する着地型事業創造プログラム「アクティブワーキング」をショートバージョンに構成し、地域外からさまざまな専門的知見を有するビジネスパーソン・専門家11名にお集まりいただき、地域のポテンシャルや課題などを探りました。
あらためて、当日のスケジュールを整理します。
丹後モニターツアー2018 タイムテーブル(11/1)
時間 |
場所 |
市町 |
特徴 |
12:30 |
宮津駅 |
宮津市 |
集合 |
13:00 |
天橋立駅(通過) |
宮津市 |
丹後半島の玄関口 |
13:20 |
阿蘇シーサイドパーク |
与謝野町 |
海沿いに面する広大な緑地公園 |
13:40 |
クアハウス岩滝(通過) |
与謝野町 |
地域住民憩いの温浴施設 |
14:00 |
GRAMP DOME 京都 天橋立 |
宮津市 |
新設間もないラグジュアリーなグランピング施設 |
14:30 |
丹後海と星の見える丘公園 |
宮津市 |
宿泊も可能、自然豊かな環境学習拠点 |
15:00 |
伊根の舟屋エリア |
伊根町 |
関西指折りの風光明媚な観光エリア |
15:30 |
道の駅 舟屋の里 伊根 |
伊根町 |
高台から舟屋群を一望できる景観スポット |
16:00 |
浦嶋館 |
伊根町 |
2018年夏にサイクルステーション化された地域の自転車拠点 |
16:30 |
経ヶ岬 |
京丹後市 |
近畿最北端の岬。美しい海岸線など自然景観を望めるエリア |
17:00 |
道の駅 てんきてんき丹後(通過) |
京丹後市 |
来訪者の立ち寄りスポット |
17:30 |
丹後王国 |
京丹後市 |
宿泊先チェックイン |
18:30 |
丹後王国内 |
京丹後市 |
夕食・初日振り返り |
丹後モニターツアー2018 タイムテーブル(11/2)
時間 |
場所 |
市町 |
特徴 |
8:30 |
丹後王国 |
京丹後市 |
西日本最大級の広さを誇る道の駅兼ホテル等レジャー施設 |
9:45 |
網野・八丁浜エリア(通過) |
京丹後市 |
白砂遠浅のビーチが広がるエリア。「鳴き砂」で有名な琴引浜などがある |
10:20 |
夕日ヶ浦温泉 |
京丹後市 |
地域最大のリゾートエリア。およそ8kmにわたる砂浜と温泉施設が立ち並ぶ |
10:45 |
久美浜湾(通過) |
京丹後市 |
カキの養殖などが盛んな内湾(潟湖) |
11:00 |
道の駅くみはまSANKAIKAN |
京丹後市 |
農産物など地元産品が豊富に揃う道の駅 |
11:30 |
丹後王国(休憩) |
京丹後市 |
協定締結式・シンポジウムへ |
冒頭のシーンは、初日の最初に訪れたスポット、広大な面積を持つ海沿いの公園「阿蘇シーサイドパーク」(与謝野町)でのワンシーン。周囲の山々を背景に、海と芝生と空で構成された開けた景観が魅力的な場所ですが、平日の日中ということもあり人の姿はまばら。週末もイベントなどが行われない限り、あまり有効に利用されているとは言いがたく、人々が訪れたくなるような打ち手、アクティビティの可能性について、意見が交わされました。
■GRAMP DOME 京都天橋立

■道の駅 舟屋の里 伊根

■浦嶋館

■経ヶ岬


モニターツアーは、今回の企画にご協力いただいた丹後王国のバスをお借りし、バスツアー形式で実施しました。移動中は、各スポットを訪問した印象についての意見交換や、同乗する京都府丹後広域振興局さんから歴史的背景をふまえた観光案内が行われました。

■丹後王国(11/2午前)

■道の駅くみはまSANKAIKAN(11/2午前)

課題や可能性について意見を交換し合う

初日のツアーが終了し、参加者同士の仲も深まっていった夕食後には、初日のラップアップの時間を設けました。わずか1時間程度と限られた時間でしたが、参加者それぞれが初日の訪問先をめぐり、見て・聞いて・考えた事柄について、ご意見を発表していただきました。
- まるでアマルフィ(世界一美しい海岸と言われるイタリアの観光名所)のような感動を覚えた。バスなどいろんな交通手段も使いながら移動できると初心者でも周遊しやすくなる(ウェブメディア)
- 食が豊かで釣りやキャンプなど遊び方にも事欠かないので、「自転車×アクティビティ」の掛け合わせを提唱してみたい(出版社)
- 自分はよく訪れる地域だが、知らないことが多かった。自転車で走るにしても、感動ポイントがわからないともったいないエリアだと思う(通信インフラ)
- エリアごとに距離が離れているので、どうつなげるかが課題。また、地域にお金を落とす場所が少ない気がした(通信インフラ)
- エリアそれぞれで遊ぶことも可能だが、各エリアをつないで楽しめそう。多様なコンテンツが情報としてまとまっていると理想的(自転車ショップ)
- 自転車コースとしては上級者向け。地元でしか知られていない情報を掴めるようなサービスがあると周遊したくなる(エンターテインメント)
- 個別のコンテンツを統合するような全体のストーリーがあると、中長期でも滞在しやすくなる(楽器メーカー)
- 豊かなコンテンツの繁忙期を整理するとエリアで空白の時期が見えるはず。谷間の時期をねらってイベント等で喚起したい(建築/アート系スタートアップ)
- 丹後地方は、紀元前のお話、聖徳太子にまつわるお話、浦島伝説……と歴史的な見所の宝庫。魅力が発信できれば、しまなみ海道をしのぐポテンシャルがあると信じている(自転車ショップ)
みなさんの意見で共通していたのは、丹後半島はさまざまなコンテンツに恵まれていること。自然景観、食、レジャー、宿泊など、それぞれが多様で、さまざまな体験を楽しめるね、という声が目立ちました。
一方で、コンテンツは各地に点在しており、その距離の長さが多くの課題である、という声も。移動の足という観点では、起伏の激しいエリアでもあり、ハードな自転車好きであればともかく、一般の人にとってはすべてを自転車の自走で移動するのは困難を極めます。既存の交通手段、あるいは新しいモビリティをも視野に入れた“コンテンツ間のつなぎ方”の多様性こそ、豊かなコンテンツを活かすカギになりそうです。
また、それぞれ知られていないコンテンツをどのように発信し、届けたい層に届けていくのか。情報発信という面においても課題と難しさを指摘する声がありました。
これらを解く1つのアプローチとして、複数の方から上がっていたのが「フェス」の可能性。イベント性や周遊性に着目し、そこに自転車や新しいサービスを絡ませるようなアイデアに着目する意見が相次ぎました。
なお、今回は時間の都合上、1人ひと言コメントをいただくだけに留まりましたが、本来の「アクティブワーキング」プログラムではさらに参加者同士でのワーク・ディスカッション同士を重ねて、企業・地域にとっての事業可能性を掘り下げていきます(不定期開催ですが、こちらもお楽しみに)。
このラップアップでのみなさんの意見を元に、翌日のシンポジウムの「公開型案件形成」へとつながっていきます。
事業化の可能性をリアルタイムで探る「公開型案件形成」

2日目、11/2(金)は午前中のフィールドワーク(丹後王国内、網野・八丁浜・夕日ヶ浦温泉・久美浜エリア、道の駅SANKAIKAN)と、正午過ぎの協定締結式を経て、午後からシンポジウムがスタートしました。会場の丹後王国内「食のみやこ」情報交流センターには、およそ70名の方々が集まりました。
プログラムの目玉は、「公開型案件形成」と銘打ったパネルディスカッション。前日からのモニターツアーに参加した企業の方々9名にご登壇いただき、外部の視点から、地域の可能性を話し合いました。単に感想を述べ合うばかりではなく、課題解決や新しい価値形成の糸口となるアイデア・事業プランを対話のなかで醸成し、今後の事業の道筋をつけよう、という意欲的なセッションです。企画、ファシリテーションはサイクル・リビングラボで行いました。
90分の対話においては、実にさまざまなテーマが交わされました。
「丹後半島で使い勝手の良い自転車のタイプとそのトレンド」にはじまり、キャンプ場やグランピングなど「すでに地域に存在する施設や事業と掛け合わせた自転車ツアー」の可能性、前日のラップアップでも上がっていた「周遊性の高いフェスと自転車」の可能性。そのほかにも、農業・水産など食の資源を活かした消費・経済のつくり方など、自転車を話題の起点としながらも、さまざまな話題に発展していきます。
会場からも意見を募りました。地域在住で自身もサイクリストでもある男性は、「地域のサイクリングチームが、外部のチームやサイクリストと交流できるようなしくみがほしい」と語ります。「人同士を介して地域内外の交流が生まれれば、関係人口も拡がり、地域にお金が落ちる機会にもなるはず──そういった可能性にチャレンジしてほしい」と貴重な意見と期待が寄せられました。
90分のセッションを経て最終的に整理された話題は、以下の4つです。
- コミュニティづくり:地域内外のサイクリストがつながるコミュニティがあれば、安心してサイクリストを受け入れることができる
- 多様な交通手段の組み合わせ:すべての行程を自転車にこだわるのではなく、交通機関の選択肢が豊富にあることは、ライトユーザーにとってのハードルを下げる。複数の交通手段の組み合わせによって、多様な魅力に出会える可能性をつくる
- 多様なユーザーが自転車を利用できる環境づくり:家族をはじめ、多様な世代や属性のコミュニティが楽しめる地域の環境整備を行うことで、間接的に自転車の魅力を感じてもらえる
- 自転車をきちんと使いこなせる住民の啓発・教育:自転車を安全に扱う住民が多い地域とするために、文化・教育的な視点があると良い。資格制度などのアイデアも

セッションを貫いていた1つの観点は、サイクリスト向けの取り組みを行うと同時に、一般の人々を対象とすることの重要性でした。これらは二項対立ではありません。たしかに、アップダウンが続く上級者向けの丹後半島では、自転車を目的とする施策によってヘビーユーザーが注目をするでしょう。一方で、一般の人々でも使いやすい自転車のあり方を考え、手段としての自転車が定着していけば、丹後半島の魅力もより伝わりやすくなり、交流人口の拡大にもつながります。また、さまざまな自転車の体験や接点により、未来のサイクリストやライトユーザーが育てられる土壌にもなりそうです。
「リビングラボの主体は、地域のみなさんです」

シンポジウムの前半、丹後地域における事業の説明と、今期これまでの事例紹介において、わたしたちが強調したのは「リビングラボの主体は、ここにいるみなさんです」ということでした。
会場の大半を占めたのは、地元4市町(京丹後市・宮津市・伊根町・与謝野町)の自治体職員・民間事業者の方々。その多くにとって、「リビングラボ」はあまりなじみのない概念です。あらためて整理をすれば、リビングラボとは、「住民と共創する活動」のこと。あるテーマや目的をもって、企業・地域・住民が一体となってさまざまな活動に取り組みます。
丹後半島の場合は、一緒に訪れた人々のうらやむような声を通じて、サイクリングの聖地ともなり得るほどのポテンシャルを、わたしたちもたびたび実感してきました。その“素材の良さ”をアドバンテージに、新しい魅力とともに人々が訪れるサイクルフレンドリーな丹後半島を目指そう、というのが丹後サイクル・リビングラボの活動です。
そのプロセスにおいては、外部の企業やサイクリストと協働しながら、いくつものプロジェクトが進行していくでしょう。そのとき欠かせないのは、地域の方々の主体的な意志と動きです。将来の地域像を見据え、地域の方々が中心となった多様な活動が生まれるにつれ、自転車やサイクリストに関わる領域はもちろん周辺領域においても新しい事業や価値が育まれ、地域に根づいていくことになるでしょう。

その1つの例として会場で紹介されたのは、伊根町でサイクリストのためのエイドステーションとしてこの夏スタートした浦嶋館です。施設の管理者である松山さんを会場に招いて行われたセッションでは、オープン以降、サイクリストの訪問数が着実に増えていることが報告されました。「まだまだ小さなスタート」としながらも、これからも併設する飲食店の経営への貢献や、ひいてはエリアへの経済効果に向けて「できることを取り組んでいきたい」と語っていました。

浦嶋館のような場所が点ではなく線となり、面となったとき。松山さんのように地域を巻き込む活動に意欲的な方々がたくさん現れてきたとき。丹後サイクル・リビングラボの活動から生まれた価値はますます広がり、人々を惹きつける魅力を増していくことになるでしょう。
2日間にわたるモニターツアーやシンポジウムでの対話、地域の方々との出会いをベースに、すでに来期の取り組みの検討も地域の方々とスタートしています。今後とも、丹後半島でのサイクル・リビングラボ活動にご期待ください!
(文責:白井 洸祐)